ミャンマー憲法裁判所による権力分立・人権保障の課題―ウズベキスタンとの比較


事業名
科学研究費補助金・基盤研究(C)
研究代表者
牧野絵美・名古屋大学法政国際教育協力研究センター講師
事業期間
2019年04月 ~ 2022年03月

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. 研究の概要
ミャンマー憲法裁判所は、2011年の設置以来、年間数件の事件しか扱っておらず、人権保障という観点から、西欧立憲主義が意図する目的を果たせておらず、機能不全に陥っている。東欧・旧ソ連の社会主義国も、体制転換にともない、権力分立、人権保障といった西欧的な立憲主義理念のもと、多くの国が憲法裁判所を設置した。本研究は、社会主義からの体制転換に着目し、ウズベキスタンを比較の対象とし、ミャンマーがなぜ憲法裁判所制度を導入し、社会主義・軍政時代の権力統合原理が違憲審査制度にどのような影響を与え、そしてミャンマーにおける人権保障メカニズムの問題点を明らかにする。

2. 研究の目的
ミャンマーは、2011年、憲法史上初めて憲法裁判所を設置した。アジアの旧社会主義国も、体制転換にともない、権力分立、人権保障といった西欧的な立憲主義の理念のもと、法の支配を確立するために独立した司法制度を導入する動きが見られ、多くの国で憲法裁判所が設置された。これらの国では、外見上立憲主義が確立したが、機能不全に陥っていることが多いが、ミャンマーにおいても、権力分立、人権保障という観点から、ミャンマー憲法裁判所は、西欧立憲主義が意図する目的を果たせておらず、機能不全に陥っている。
従来のミャンマー憲法裁判所研究は、権威主義体制から民主化という政治学の観点から若干の研究が行われてきたが、社会主義からの体制移行に着目し、西欧的な立憲主義概念を受容し、どのように権力分立、人権保障を目指した憲法体制をつくりあげていくのかという点からの研究は行われていない。本研究では、東欧・旧ソ連諸国の中でもウズベキスタンを比較の対象とし、第1にミャンマーがなぜ憲法裁判所制度を導入したのかを明らかにする。第2には、ミャンマー憲法裁判所は、機能不全に陥っているが、社会主義・軍政時代の権力統合原理が現在の違憲審査制度にどのような影響を与えているのかを検証する。第3には、そしてミャンマーにおける人権保障メカニズムの問題点を明らかにする。

3. 研究実施計画
ミャンマーは、1962年のネ・ウィン将軍によるクーデター以来、半世紀にわたり軍事独裁政権により統治されてきた。2011年1月に現行憲法である2008年憲法が施行され、2011年3月に民政移管した。2008年憲法にもとづき、2011年3月に、ミャンマーの憲法史上初めて憲法裁判所が設置されたが、ミャンマーは、西欧的な立憲主義概念を受容し、どのように権力分立、人権保障を目指した憲法体制をつくりあげているのかを検証したい。これまでの研究においては、軍政から民主化という観点から、韓国及びタイとの比較検討を行ったが、本研究においては、社会主義からの移行に着目し、比較的憲法裁判所に関する研究蓄積の多い東欧・旧ソ連諸国の中でも、ウズベキスタンと比較しながら検討する。
1年目である2019年度は、第1に、ミャンマーがなぜ、憲法裁判所を設置したのかを、ウズベキスタンと比較することを通じて明らかにしたい。両国の現行憲法起草過程に着目し、可能な限り両国の憲法起草関係者や憲法裁判所裁判官、憲法研究者等へのインタビューを行う。
第2に、現在、両国の憲法裁判所は機能不全に陥っているが、社会主義・軍政時代の権力統合原理が、現在の違憲審査制度にどのような影響を与えているのかを検証する。ミャンマーにおいては、裁判官全員の弾劾が、ウズベキスタンにおいても、長期にわたり長官が不在である状態が続いた。憲法裁判所をめぐり、立法府、行政府及び司法府の関係性を明らかにし、ミャンマーにおける権力分立確保の問題点を指摘したい。
これらの研究を行う際に、体制批判が難しい国を対象とするため、客観的な分析を行っているオーストラリア、イギリスなどの両国の立憲主義を研究対象としている欧米の研究者による文献を用い、可能な限りで意見交換を実施する。